「月夜のタヌキ」プロジェクト

物語のいでき始めのおや 〜月夜野アーカイブ〜

「物語のいでき始めのおや」とは、竹取物語のことを指した源氏物語のなかにあることばです。私たちは、「月(ツキ)」と「運」だけで勝負できるこのまち月夜野に、たくさんの物語を育てていきます。2016年、月夜野が日本百名月に登録されたことを機に、みなかみ〈月〉の会を結成しました。

2016年07月


萬 葉 集     月の歌 20選


萬葉集の月の歌は170首以上もあります。
甲乙つけがたい作品が多く、そのなかから20首を選ぶのはとても無理があるかと思います。

また前後の長歌や短歌の流れがないと、意味が伝わらないものも多いものですが、
いずれ、文脈などの解説は徐々に書き足していきたいと思っています。

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1、熟田津(にきたつ)に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな
                            額田王      巻1  雑歌8


2、東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ
                     柿本朝臣人麻呂  巻1  雑歌48


3、あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らす惜しも
                         巻2 雑歌169 


4、世の中は 空しきものと あらむとそ この照る月は 満ち欠けしける
                    よみびと知らず   巻3 雑歌442


5、見えずとも 誰れ恋ひずあらめ 山の端に いさよふ月を 外に見てしか
                     満誓沙弥 巻3  393 
 

6、月夜よし 川の音清し いざここに 行くも行かぬも 遊びて行かむ
                     防人佑大伴四綱 巻4 相聞571
 

7、目には見て 手には取らえぬ 月の内の 桂のごとき 妹をいかにせむ
                       湯原王 巻4 相聞632

           目には見て手にはとられぬ月のうちの桂のごとき君にぞありける 『伊勢物語』


8、月読の 光は清く 照らせれど 惑へる心 思ひあへなく
                       湯原王  巻4 相聞671


9、ぬばたまの 夜霧の立ちて おほほしく 照れる月夜の 見れば悲しさ
                      大伴坂上郎女  巻6 雑歌982


10、はしきやし 間近き里の 君来むと おほのびにかも 月の照りたる
                       湯原王  巻6 雑歌986

 
11、り放けて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き 思ほゆるかも
                        大伴家持 巻6 雑歌994 

        月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長く恋ひし 君に逢へるかも
                                坂上郎女 巻6 雑歌993


12、山の端に いさよふ月の 出でむかと 我が待つ君が 夜は更けにつつ
                       忌部首黒麻呂 巻6 雑歌1008


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13、我が背子と ふたりし居らば 山高み 里には月は 照らずともよし
                      高丘河内連 巻6 雑歌1039

              ******
 


14、この夜らは さ夜更けぬらし 雁が音の 聞こゆる空ゆ 月立ち渡る
                         巻10 秋雑歌2224


15、わが背子が かざしの萩に 置く露を さやかに見よと 月は照るらし
                         巻10 秋雑歌2225


16、あしひきの 山より出づる 月待つと 人には言ひて 妹待つわれを
                         巻12 3002 


17、ぬばたまの 月に向ひて ほととぎす 鳴く音遥(はる)けし 里遠みかも
                        大友家持 巻17 3988


18、月見れば 同じ国なり 山こそば 君があたりを 隔てたりけれ
                        大伴池主  巻18 4073


19、秋風の 吹き扱(こ)き敷ける 庭の花 清き月夜に 見れど飽かぬかも
                        大伴家持 巻20 4453


20、天地(あめつち)を 照らす日月の 極みなく あるべきものを 何をか思はむ
                        大炊王   巻20 4486




月夜野百八燈リーフ ウラ

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万葉集(4) 巻15〜20
作者出典
151ぬばたまの 夜渡る月に あらませば 家なる妹に 逢ひて来ましを万葉 巻15 3671
152ひさかたの 月は照りたり 暇(いとま)なく 海人の漁りは 燈し合へりみゆ万葉 巻15 3672
153天離(あまざか)る 鄙(ひな)にも月は 照れれども 妹ぞ遠くは 別れ来にける万葉 巻15 3698
154隠(こも)りのみ 恋(こ)ふれば苦し 山の端ゆ 出で来る月の 顕(あらは)さばいかに万葉 巻16 3803
155織女(たなばた)し 舟乗りすらし まそ鏡 清き月夜に 雲立ちわたる大伴家持万葉 巻17 3900
156かきつはた 衣に摺りつけ ますらをの 着襲(きそ)ひ猟(かり)する 月は来にけり大伴家持万葉 巻17 3921
157ぬばたまの 夜は更けぬらし 玉櫛笥(たまくしげ) 二上山に 月かたぶきぬ万葉 巻17 3955
158ぬばたまの 月に向ひて ほととぎす 鳴く音遥(はる)けし 里遠みかも大伴家持万葉 巻17 3988
159珠洲の海に 朝開きして 漕ぎ来れば 長浜の浦に 月照りにけり大伴家持万葉 巻17 4029
160ほととぎす こよ鳴き渡れ 灯火を 月夜になそへ その影も見む大伴家持万葉 巻18 4054
161月待ちて 家には行かむ わが挿せる 赤ら橘 影に見えつつ粟田女王万葉 巻18 4060
162ぬばたまの 夜渡る月を 幾夜経(ふ)と 数(よ)みつつ妹は われ待つらむそ大伴家持万葉 巻18 4072
163月見れば 同じ国なり 山こそば 君があたりを 隔てたりけれ大伴池主万葉 巻18 4073
164あしひきの 山はなくもが 月見れば 同じ里を 心隔てつ大伴家持万葉 巻18 4076
165雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて贈らむ 愛(は)しき児(こ)もがも大伴家持万葉 巻18 4134
166さ夜更けて 暁月(あかときづき)に 影見えて 鳴くほととぎす 聞けばなつかし万葉 巻19 4181
167渋谿(しぶたに)を さして我が行く この浜に 月夜飽きてむ 馬しまし止め大伴家持万葉 巻19 4206
168秋風に 今か今かと 紐解きて うら待ち居(を)るに 月傾きぬ万葉 巻20 4311
169秋草に 置く白露の 飽かずのみ 相見るものを 月をし待たむ万葉 巻20 4312
170秋風の 吹き扱(こ)き敷ける 庭の花 清き月夜に 見れど飽かぬかも大伴家持万葉 巻20 4453
171ほととぎす かけつつ君が 松陰に 紐解き放(さ)くる 月近づきぬ大伴家持万葉 巻20 4464
172天地(あめつち)を 照らす日月の 極みなく あるべきものを 何をか思はむ大炊王万葉 巻20 4486
173み雪降る 冬は今日のみ うぐひすの 鳴かむ春へは 明日にしあるらし主人三形王万葉 巻20 4489


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「月夜野百八燈」リーフ HP用


万葉集(3) 巻10〜15
作者出典
九月(ながつき)の 有明の月夜 ありつつも 君が来まさば われ恋ひめやも万葉 巻10 秋相聞歌2300
しぐれ降る 暁月夜(あかときづくよ) 紐解かず 恋ふらむ君と 居らましものを万葉 巻10 秋相聞歌2306
誰が園の 梅の花ぞも ひさかたの 清き月夜に ここだ散りくる万葉 巻10 冬雑歌2325
さ夜更けて 出で来む月を 高山の 嶺の白雪 隠すらむかも万葉 巻10 冬雑歌2332
降る雪の 空に消ぬべく 恋ふれど 逢ふよしなに 月ぞ経にける万葉 巻10 冬相聞歌2333
わがやどに 咲きたる梅を 月夜よみ 宵々見せむ 君こそ待て万葉 巻10 冬相聞歌2333
泊瀬の 斎槻(ゆつき)が下に わが隠せる妻 あかねさし 照れる月夜に 人見てむかも万葉 巻11 施頭歌2353
月見れば 国は同じぞ 山へなり 愛(うつく)し妹は へなりてあるかも万葉 巻11 2420
雲間より さ渡る月の おほほしく 相見し子らを 見むよしもがも万葉 巻11 2450
遠き妹が 降りさけ見つつ 偲ふらむ この月の面に 雲たなびき 万葉 巻11 2460
山の端を 追ふ三日月の はつはつに 妹をぞ見つる 恋しきまでに万葉 巻11 2461
我妹子し われを思はば まそ鏡 照り出づる月の 影に見え来ぬ万葉 巻11 2462
ひさかたの 天照る月の 隠りなば 何になそへて 妹を偲はむ万葉 巻11 2463
三日月の さやにも見えず 雲隠り 見まくぞ欲しき うたてこのころ万葉 巻11 2464
味酒(うまさけ)の みもろの山に 立つ月の 見が欲し君が 馬の音ぞする万葉 巻11 2512
月夜よみ 妹に逢はむと 直道(ただち)から われは来つれど 夜ぞ更けにける万葉 巻11 2618
夕月夜 暁闇の 朝影に わが身はなりぬ 汝(な)を思ひかねて万葉 巻11 2664
月しあれば 明くらむわきも 知らずして 寝てわが来しを 人見けむかも万葉 巻11 2665
妹が目の 見まく欲しけく 夕闇の 木の葉隠れる 月待つごとし万葉 巻11 2666
真袖もち 床うち掃ひ 君待つと 居りし間に 月かたぶきぬ万葉 巻11 2667
二上(ふたかみ)に 隠らふ月の 惜しけども 妹が手本を 離るるこのころ万葉 巻11 2668
わが背子が 振り放け見つつ 嘆くらむ 清き月夜に 雲なたなびき万葉 巻11 2669
まそ鏡 清き月夜の ゆつりなば 思ひはやまず 恋こそまさめ万葉 巻11 2670
今夜の 有明月夜 ありつつも 君をおきては 待つ人もなし万葉 巻11 2671
この山の 嶺に近しと わが見つる 月の空なる 恋もするかも万葉 巻11 2672
ぬばたまの 夜渡る月の ゆつりなば さらにや妹に わが恋ひ居らむ万葉 巻11 2673
窓越しに 月おし照りて あしひきの 嵐吹く夜は 君をしぞ思ふ万葉 巻11 2679
この言を 聞かむとならし まそ鏡 照れる月夜も 闇のみに見つ万葉 巻11 2811
かくだにも 妹を待ちなむ さ夜更けて 出で来し月の かたぶくまでに万葉 巻11 2820
木の間より 移ろふ月の 影を惜しみ 立ち廻(もとほ)るに さ夜更けにけり万葉 巻11 2821
あしひきの 山より出づる 月待つと 人には言ひて 妹待つわれを万葉 巻12 3002
夕月夜 暁闇(あかつきとやみ)の おほほしく 見し人ゆえに 恋ひわたるかも万葉 巻12 3003
ひさかたの 天つみ空に 照る月の 失わせむ日こそ わが恋やまめ万葉 巻12 3004
十五日(もちのひ)に 出でにし月の 高々に 君をいませて 何をか思はむ万葉 巻12 3005
月夜よみ 門に出で立ち 足占(あしうら)して 行く時さへや 妹に逢はずらむ万葉 巻12 3006
ぬばたまの 夜渡る月の さやけくは よく見てましを 君が姿を万葉 巻12 3007
あしひきの 山を木高み 夕月を いつかと君を 待つが苦しさ万葉 巻12 3008
能登の海に 釣りする海女(あま)の 漁(いざ)り火の 光にいませ 月待ちがてり万葉 巻12 3169
あらたまの 年の緒長く 照る月の 飽かざる君や 明日別れなむ万葉 巻12 3207
久にあらむ 君を思ふに ひさかたの 清き月夜も 闇の夜に万葉 巻12 3208
天橋も 長くもがも 高山の 高くもがも 月夜見の 持てるをち水 い取り来て 君に奉りて をち得てしかも万葉 巻13 雑歌3245
天なるや 月日のごとく わが思へる 君が日に異(け)る 老ゆらく惜しも万葉 巻13 雑歌3246
わがゆえに 思ひな瘦せそ 秋風の 吹かむその月 逢はむものゆえ万葉 巻15 3586
月読の 光を清み 神島の 磯間の浦ゆ 船出すわれは万葉 巻15 3599
大船に 真楫(まかじ)しじ貫き 海原を 漕ぎ出て渡る 月人壮士万葉 巻15 3611
月読の 光を清み 夕なぎに 水手(かこ)の声呼び 浦み漕ぐかも万葉 巻15 3622
山の端に 月傾けば 漁(いざ)りする 海人の燈火(ともしび) 沖になづさふ万葉 巻15 3623
ひさかたの 天照る月は 見つれども わが思ふ妹に 逢はぬころかも万葉 巻15 3650

ぬばたまの 夜渡る月は 早も出でぬかも 海原の 八十島の上ゆ 妹があたり見む万葉 巻15 3651
夕月夜 影立ち寄り合ひ 天の川 漕ぐ舟人を 見るが羨(とも)しさ万葉 巻15 3658


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万葉集(2) 巻7〜10
作者出典
霜曇り すとにかあるらむ ひさかたの 夜渡る月の 見えなく思へば万葉 巻7 雑歌1083
山の端に いさよふ月を いつとかも 我は待ち居らむ 夜は更けにつつ万葉 巻7 雑歌1084
妹があたり 我は袖振らむ 木の間より 出で来る月に 雲なたなびき万葉 巻7 雑歌1085
靫(ゆき)懸くる 伴の男広き 大伴に 国栄えむと 月は照るらし万葉 巻7 雑歌1086
こもりくの 泊瀬の山に 照る月は 満ち欠けしけり 人の常なき万葉 巻7 雑歌1270
朝月の 日向の山に 月立てりみゆ 遠妻を 待ちたる人に 見つつ偲はむ柿本朝臣人麻呂万葉 巻7 雑歌1294
春日にある 御笠の山に 月の船いづ 風流士(みやびを)の 飲む酒杯に 影に見えつつ万葉 巻7 雑歌1295
み空行く 月読壮士 夕さらず 目には見れども 寄るよしもなし万葉 巻7 譬喩歌1372
春日山 山高くあらし 岩の上の 菅の根見むに 月待ちかたし万葉 巻7 譬喩歌1373
闇の夜は 苦しきものを いつしかと わが待つ月も 早も照らぬか 万葉 巻7 譬喩歌1374
闇ならば うべも来まさじ 梅の花 咲ける月夜に 出でまさじとや紀郎女万葉 巻8 春相聞歌1452
春霞 たなびく山の へなれれば 妹に逢はずて 月ぞ経にける大伴家持万葉 巻8 春相聞歌1464
わが宿に 月おし照れり ほととぎす 心あれ今夜 来鳴き響(とよ)もせ大伴書持万葉 巻8 夏雑歌1480
望(もち)ぐたち 清き月夜に 我妹子(わぎもこ)に 見せむと思ひし やどの橘坂上大嬢万葉 巻8 夏相聞歌1508
夕月夜 心もしのに 白露の 置くこの庭に こほろぎ鳴くも湯原王万葉 巻8 秋雑歌1552
雨晴れて 清く照りたる この月夜 またさらにして 雲たなびき大伴家持万葉 巻8 秋雑歌1569
妹が家の 門田を見むと うち出来し 心もしるく 照る月夜かも大伴家持万葉 巻8 秋雑歌1596
あらたまの 月立つまでに 来まさねば 夢にし見つつ 思ひぞ我がせし大伴坂上郎女万葉 巻8 秋相聞歌1620
ひさかたの 月夜を清み 梅の花 心開けて 我が思へる君紀子鹿郎女万葉 巻8 秋相聞歌1661
旅なれば 夜中さして 照る月の 高島山に 隠らく惜しも万葉 巻9 雑歌1691
さ夜中と 夜は更けぬらし 雁が音の 聞こゆる空を 月渡るみゆ万葉 巻9 雑歌1701
天の原 雲なき宵に ぬばたまの 夜渡る月の 入らまく惜しも万葉 巻9 雑歌1712
落ちたぎち 流るる水の 岩に触れ 淀める淀に 月の影見ゆ万葉 巻9 雑歌1714
照る月を 雲な隠しそ 島陰に わが舟泊(は)てむ 泊り知らずも春日蔵万葉 巻9 雑歌1719
みもろの 神なび山に たち向う 御垣(みかき)の山に 秋萩の万葉 巻9 雑歌1761
倉橋の 山を高みか 夜隠(よごもり)りに 出で来る月の 片待ちかたき沙弥女王万葉 巻9 雑歌1763
春霞たなびく今日の 夕月夜 清く照るらむ 高松の野に万葉 巻10 春雑歌1874
春されば 木の暗(くれ)多み 夕月夜 あほつかなしも 山陰にて万葉 巻10 春雑歌1875
朝霞 春日の暮は 木の間より 移ろふ月を いつとか待たむ万葉 巻10 春雑歌1876
春日にある 三笠の山に 月も出でぬかも 佐紀山に 咲ける桜の 花の見ゆべく万葉 巻10 春雑歌1887
わがやどの 毛桃の下に 月夜さし 下心よし うたてこのころ万葉 巻10 春雑歌1889
月夜よみ 鳴くほととぎす 見まく欲り われ草取れり 見む人もがも万葉 巻10 夏雑歌1943
今夜の おほつかなきに ほととぎす 鳴くなる声の 音の遥けさ万葉 巻10 夏雑歌1952
五月山 卯の花月夜 ほととぎす 聞けども飽かず また鳴かぬかも万葉 巻10 夏雑歌1953
夕星(ゆふづつ)も 通ふ天道(あまぢ)を いつまでか 仰ぎて待たむ 月人壮士万葉 巻10 秋雑歌2010
万代に 照るべき月も 雲隠り 苦しきものぞ 逢はむと思へど万葉 巻10 秋雑歌2025
秋風の 清き夕(ゆふへ)に 天の川 舟漕ぎ渡る 月人壮士万葉 巻10 秋雑歌2043
天の原 行きて射てむと 白真弓 引きて隠(こも)れる 月人壮士万葉 巻10 秋雑歌2051
さを鹿の 外(よそ)に雁が音 聞きしより はだれ霜降り 寒しこの夜は万葉 巻10 秋雑歌2131
黄葉(もみじ)する 時になるらし 月人の 桂の枝の 色づく見れば万葉 巻10 秋雑歌2202
秋萩の 下葉もみちぬ あらたまの 月の経ぬれば 風をいたみかも万葉 巻10 秋雑歌2205
天の海に 月の舟浮け 桂楫(かつらかぢ) 懸けて漕ぐみゆ月人壮士万葉 巻10 秋雑歌2223
この夜らは さ夜更けぬらし 雁が音の 聞こゆる空ゆ 月立ち渡る万葉 巻10 秋雑歌2224
わが背子が かざしの萩に 置く露を さやかに見よと 月は照るらし万葉 巻10 秋雑歌2225
心なき 秋の月夜の 物思ふと 寐(い)の寝らえぬに 照りつつもとな万葉 巻10 秋雑歌2226
思わぬに しぐれの雨は 降りたれど 天雲晴れて 月夜さやけし万葉 巻10 秋雑歌2227
萩の花 咲きのををりを 見よとかも 月夜の清き 恋まさらくに万葉 巻10 秋雑歌2228
白露を 玉になしたる 九月(ながつき)の 有明の月夜 見れど飽かぬかも万葉 巻10 秋雑歌2229
君に恋ひ 萎(しな)えうらぶれ わが居れば 秋風吹きて 月かたぶきぬ万葉 巻10 秋相聞歌2298
秋の夜の 月かも君は 雲隠り しましく見ねば ここだ恋しき万葉 巻10 秋相聞歌2299


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万葉集(1) 巻1〜7
作者出典
熟田津(にきたつ)に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな額田王万葉 巻1 雑歌8
わたつみの 豊旗雲に 入日見し 今夜の月夜 さやけかりこそ中大兄万葉 巻1 雑歌15
東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ柿本朝臣人麻呂万葉 巻1 雑歌48
北山に たなびく雲の 星離れ行き 月を離れて太上天皇万葉 巻2 相聞161
あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らす惜しも万葉 巻2 雑歌169
ひさかたの 天行く月を 網に刺し 我が大君は蓋(きぬがさ)にせり柿本朝臣人麻呂万葉 巻3 雑歌240
倉橋の 山を高みか 夜隠りに 出で来る月の 光乏しき間人すくね大浦万葉 巻3 雑歌290
児らが家道(いえじ) やや間遠きを ぬばたまの 夜渡る月に 競ひあへむかも中納言安倍広庭卿万葉 巻3 雑歌302
見えずとも 誰恋ひざらめ 山の端に いさよふ月を 外に見てしか満誓沙弥万葉 巻3 雑歌393
10世の中は 空しきものと あらむとそ この照る月は 満ち欠けしけるよみ人知らず万葉 巻3 雑歌442
11朝日影 にほへる山に 照る月の 飽かざる君を 山越に置きて田部忌寸櫟子万葉 巻4 相聞495
12大伴の 見つとは言はじ あかねさし 照れる月夜に 直に逢へりとも賀茂女王万葉 巻4 相聞565
13月夜よし 川の音清し いざここに 行くも行かぬも 遊びていかむ防人佑大伴四綱万葉 巻4 相聞571
14目には見て 手には取らえぬ 月の内の 桂のごとき 妹をいかにせむ湯原王万葉 巻4 相聞632
15ただ一夜 隔てしからに あらたまの 月か経ぬると 心惑ひぬ湯原王万葉 巻4 相聞638
16恋ひ恋ひて 逢いたるものを 月しあれば 夜は隠るらむ しましはあり待て大伴坂上郎女万葉 巻4 相聞667
17月読の 光は清く 照らせれど 惑へる心 思ひあへなく湯原王万葉 巻4 相聞671
18ぬばたまの その夜の月夜 今日までに 我は忘れず 間なくし思へば河内百枝娘子万葉 巻4 相聞702
19夕闇は 道たづたづし 月待ちて いませ我が背子 その間にも見む妹子大宅女万葉 巻4 相聞710
20み空行く 月の光に ただ一目 相見し人の 夢にし見ゆる安都扉娘子万葉 巻4 相聞671
21春日山 霞たなびき 心ぐく 照れる月夜に ひとりかも寝む同坂上大嬢万葉 巻4 相聞735
22月夜には 門に出で立ち 夕占問ひ 足占をそせし 行かまくを欲り大伴家持万葉 巻4 相聞736
23一重山 隔れるものを 月夜良み 門に出で立ち 妹か待つらむ大伴家持万葉 巻4 相聞765
24雨隠る 御笠の山を 高みかも 月の出で来ぬ 夜は更けにつつ安倍朝臣虫麻呂万葉 巻6 雑歌930
25猟高(かりたか)の 高円山を 高みかも 出で来る月の 遅く照るらむ大伴坂上郎女万葉 巻6 雑歌981
26ぬばたまの 夜霧の立ちて おほほしく 照れる月夜の 見れば悲しさ大伴坂上郎女万葉 巻6 雑歌982
27雲隠り ゆくへをなみと 我が恋ふる 月をや君が 見まく欲りする豊前の国の娘子万葉 巻6 雑歌984
28天にいます 月読草子 賄はせむ 今夜の長さ 五百夜継ぎこそ湯原王万葉 巻6 雑歌985
29はしきやし 間近き里の 君来むと おほのびにかも 月の照りたる湯原王万葉 巻6 雑歌986
30待ちかてに 我がする月は 妹が着る 御笠の山に 隠りてありけり藤原八束朝臣万葉 巻6 雑歌987
31月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長く恋ひし 君に逢へるかも大伴坂上郎女万葉 巻6 雑歌993
32降り放けて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き 思ほゆるかも大伴家持万葉 巻6 雑歌994
33山の端に いさよふ月の 出でむかと 我が待つ君が 夜は更けにつつ忌部首黒麻呂万葉 巻6 雑歌1008
34大君の 行幸(みゆき)のまにま 我妹子が 手枕(たまくら)まかず 月ぞ経にける大伴家持万葉 巻6 雑歌1032
35我が背子と ふたりし居らば 山高み 里には月は 照らずともよし高岡河内連万葉 巻6 雑歌1039
36天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠るみゆ万葉 巻7 雑歌1068
37常はさね 思はぬものを この月を 過ぎ隠らまく 惜しき宵かも万葉 巻7 雑歌1069
38ますらをの 弓末振り起し 猟高の 野辺さへ清く 照る月夜かも万葉 巻7 雑歌1070
39山の端の いさよふ月を 出でむかと 待ちつつ居るに 夜ぞ更けにける万葉 巻7 雑歌1071
40明日の宵 照らむ月夜は 片寄りに 今夜に寄りて 夜長くあらなむ万葉 巻7 雑歌1072
41玉垂(たまだれ)の 小簾(をす)の間通し ひとり居て 見る験(しるし)なき 夕月夜かも万葉 巻7 雑歌1073
42春日山 おして照らせる この月は 妹が庭にも さやけかりけり万葉 巻7 雑歌1074
43海原の 道遠みかも 月読の 光少き 夜は更けにつつ万葉 巻7 雑歌1075
44ももしきの 大宮人の 罷(まか)り出て 遊ぶ今夜の 月のさやけさ万葉 巻7 雑歌1076
45ぬばたまの 夜渡る月を 留めむに 西の山辺に 関もあらぬかも万葉 巻7 雑歌1077
46この月の ここに来れば 今とかも 妹が出で立ち 待ちつつあるらむ万葉 巻7 雑歌1078
47まそ鏡 照るべき月を 白栲(しろたへ)の 雲か隠せる 天つ霧かも万葉 巻7 雑歌1079
48ひさかたの 天照る月は 神代にか 出で反(かへ)るらむ 年は経につつ万葉 巻7 雑歌1080
49ぬばたまの 夜渡る月を おもしろみ 我が居る袖に 露ぞ置きにける万葉 巻7 雑歌1081
50水底の 玉さへさやに 見つべくも 照る月夜かも 夜の更けゆけば
万葉 巻7 雑歌1082



「月夜野百八燈」リーフ HP用

なにかにつけて、月夜野との縁をこじつけたい凡河内躬恒。

     月夜野にかかわる三十六歌仙の二人 凡河内躬恒と源順


「源氏物語」の松風のなかにも登場します。

源氏「久方の中に生ひたる(月の中に生い茂っている桂の里)」
とお呻りになったとたんに、明石のお住まいから目の前に見えた淡路島をお思い出しになって躬恒の「今宵に限って月が近く見えるのは、場所がらによるのかしらん」 といぶかしがったということを話し出したりなさると、人々の中にはしみじみとあの頃のことを思い出して、酔い泣きなどする者もあるに相違ない。

源氏「廻(めぐ)り来て手に取るばかりさやけきや淡路の島のあはと見し月」
 



源氏が引用する躬恒のこの元歌は、


 淡路にてあはと遥かに見し月の近き今宵は所からかも
                          (新古今・雑上)
 
 

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こうした表現で解釈 すると気持ちがよいのですが、これは今泉忠義の意訳によるものです。


原文ははたしてどうなっているのか気になり、電子書籍で確認してみると、

行幸待ちきこえたまふ心ばへなるべし。
「中に生ひたる」と、うち誦んじたまふついでに、かの淡路島を思い出でて、
躬恒が「所からか」とおぼめきけむことなど、のたまひ出でたるに

と、ただ「所からか」だけの表現です。




これが与謝野晶子の訳になると、

帝の行幸を待ち奉る意があるのであろう。「中に生ひたる」(久方の中におひたる里なれば光をのみぞ頼むべらなる)と源氏は古歌を口ずさんだ。
源氏がまた躬恒が「淡路にてあはれとはるかに見し月の近き今宵はところがらかも」と不思議がった歌のことを言い出すと、源氏の以前のことを思って泣く人も出てきた。皆酔ってもいるからである。


と元歌をちゃんと引用して注釈なくとも理解できるようにしています。 

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さらに、妻が持っている瀬戸内寂聴の訳となると、もっと丁寧な表現になります。


〈久方の中に生ひたる里なれば〉といいう古歌を、お口ずさみになりながら、あの明石で淡路島を望まれながら古歌を吟じられたことを思い出しになります。それは躬恒の歌で、躬恒が、淡路でぼんやり遠くで見た月にひき替え、今宵宮中で見る月が明るく近々と見えるのは、都と言う所柄のせいかと、いぶかしがったというものでした。今の御自分のお気持ちをお話しなさいますと、聞いている人々の中には感動のあまり、酔い泣きする者もいるようです。

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はじめて複数の訳文を比較してみました。
ならべてみて初めて通読では気づかないそれぞれの特徴がわかるものです。


余談ながら、この「源氏物語」など古典を読むにあたり、私にとって電子書籍はとても重宝しています。
本にかかわる仕事をしている立場上、紙の本の良さをなにかと強調する機会が多い身ながら、また、みなかみ町に暮らし、みなカミの里をみな神の〜とともに「みな紙の里」として資産づくりをはかりたい立場でもありながら、このデジタル技術の便利さには、一目置かざるを得ません。

電子書籍のメリットは、ただ紙の本の情報を電子化しただけではなく、 
①、著作権を問わない公共物としての古典などの文献資料が、思いついたときにすぐ検索し、その場でダウンロードできる。
②、一度得た資料は、端末を選ぶこと無く、Kindleだろうが、タブレットでもパソコンでも、一度開いたページやマーカーをつけたところが、いつでも、どこからでも開ける便利さがある。





凡河内躬恒の月の歌は、三峰神社縁起と月夜野とのかかわりをみたときに一度チェックしているはずですが、「淡路にて〜」の最初の地名の印象から月夜野へつなげる理由はありえない歌と感じて、気にとめなかったのだと思います。
それが今回『源氏物語』のおかげで、「所からか」こそが強調される歌であったと気づけたわけです。

                               凡河内躬恒と源氏物語からまたひとつ、
                           月夜野のものがたりを生むことができそうです。



               月夜野から見る今宵の月が近く大きく見えるのは、
                                         「所からか」



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月夜野からみる月は、なぜ大きく見える

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ずっと掘り下げて考え続けたいポイントなので、
谷崎潤一郎、円地文子、田辺聖子、林望、橋本治の訳なども、
比較してみたくなりました。 

2016年6月の十五夜の日は、18日(月)ですが月齢はまだ13.7。

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この写真は18日(月)午前0時のもの

月齢が15の望月=満月になるのは、翌々日の20日(水)です。(月齢15.7)

19日の月齢は14.7なので、15になるのがギリギリ20日に入ってしまいます。
したがって十五夜の日からは2日ずれてしまうのです。

暦上の十五夜は、新月から15日目の日という意味なので、必ずしも天文学上の月齢(月の形の満ち欠けの状態)の満月とは一致せず、このような開きが出てしまうことがあるのです。 

わずかな違いなので、気づかないことも多いかもしれませんが、十五夜の日のお月さんがまん丸の満月ではないことは、けっこう多いものです。 

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月草(ツユクサ)が文字通り朝露に濡れていました。

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月草に 衣ぞ染むる 君がため 斑の衣(まだらのごろも)(す)らむと思ひて

                   
作者不詳 巻7‐1255


月草に 衣色どり 摺らめども うつろふ色と 言ふが苦しさ

                   
作者不詳 巻7‐1339 





「月草に衣ぞ染むる」といいますが、
名前は思い出せませんが、ツユクサの花のもっと大きい植物があります。

その大きな花から青色を搾り取り、それを何度も和紙にしみ込ませて、
友禅染などの下絵書きに使うそうです。

水に簡単に溶けることから、下絵は完全に消え去るというわけです。


ツユクサの露は、写真のように草に露がかかる姿かとも思いますが、
この青色を取り出す行程をみると、
花そのものにいかに多くの水分が含まれているかがわかります。





おなじくは我が身も露と消えななむ消えなばつらき言の葉も見じ
              (新古1343)

どこから見ても、はかなさがつきまといます。

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翌日の妻の家から

朝(あした)咲き 夕(ゆふへ)は消ぬる 月草の 消ぬべき恋も 我はするかも

                   
作者不詳 巻10 2291 

月草の 仮れる命に ある人を いかに知りてか 後も逢はむと言ふ

                   作者不詳 巻11 2756

うちひさす 宮にはあれど 月草の うつろふ心 我が思はなくに

                   作者不詳 巻12 3058

百に千に 人は言ふとも 月草の うつろふ心 我れ持ためやも


                   作者不詳 巻12 3059

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