1、熟田津(にきたつ)に船乗りせむと 月待てば潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな
額田王 万葉集 巻1 雑歌八
2、東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ
柿本朝臣人麻呂 万葉集 巻1 雑歌 四八
3、見えずとも誰恋ひざらめ 山の端にいさよふ月を 外に見てしか
満誓沙弥 万葉集 巻3 雑歌 三九三
4、世の中は 空しきものと あらむとそ この照る月は 満ち欠けしける
よみ人知らず 万葉集 巻3 雑歌 四四二
5、月夜よし 川の音清し いざここに 行くも行かぬも 遊びていかむ
防人佑大伴四綱 万葉集 巻4 相聞 五七一
6、月読の 光は清く 照らせれど 惑へる心 思ひあへなく
湯原王 万葉集 巻4 相聞 六七一
目には見て 手には取らえぬ 月の内の 桂のごとき 妹をいかにせむ
湯原王
7、降り放けて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き 思ほゆるかも
大伴家持 万葉集 巻6 雑歌 九九四
8、山の端に いさよふ月の 出でむかと 我が待つ君が夜は更けにつつ
忌部首黒麻呂 万葉集 巻6 雑歌 一〇〇八
9、我が背子と ふたりし居らば 山高み 里には月は 照らずともよし
高岡河内連 万葉集 巻6 雑歌 一〇三九
10 、あしひきの 山より出づる 月待つと 人には言ひて 妹待つわれを
万葉集 巻12 三〇〇二
11 、月見れば 同じ国なり 山こそば 君があたりを 隔てたりけれ
大伴池主 万葉集 巻18 四〇七三
12 、天地(あめつち)を照らす日月の極みなく あるべきものを何をか思はむ
大炊王 万葉集 巻20 四四八六
13 、天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも
安倍仲麿 百人一首7 古今集 四〇六
14 、今来むと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな
素性法師 百人一首21 古今集 691
15 、月みれば ちぢに物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
大江千里 百人一首23 古今集193
16 、 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
坂上是則 百人一首31 古今集332
17 、夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月やどるらむ
清原深養父 百人一首36 古今集166
18 、めぐり逢ひて 見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半の月かげ
紫式部 百人一首57 新古今集1497
19 、やすらはで 寝なましものをさ夜ふけて かたぶくまでの月を見しかな
赤染衛門 百人一首59 後拾遺集 恋・680
20 、心にもあらで 憂き世に長らへば 恋しかるべき 夜半の月かな
三条院 百人一首68 後拾遺集860
21 、秋風に たなびく雲の絶え間より もれいづる月の影のさやけさ
左京大夫顕輔 百人一首79 新古今集413
22 、ほととぎす 鳴きつるかたを眺むれば ただ有明の月ぞ残れる
後徳大寺左大臣 百人一首81 千載集161
23 、なげけとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな
西行法師 百人一首86 千載集九二九
24、ゆくへなく月に心のすみすみて果てはいかにかならむとすらむ
西行法師 山家集三五三
25 、来む世には心のうちにあらはさむあかでやみぬる月の光を
西行法師 御裳濯河歌合 一四
26 、ともすれば月澄む空にあくがるる心のはてを知るよしもがな
西行法師 山家集 六四七
27、 捨つとならば憂き世をいとふしるしあらむわが身は曇れ秋の夜の月
西行法師 宮河歌合三二
28 、願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ
西行法師 山家集 七七
29 、月の顔見るは忌むこと、と制しけれども、
ともすれば人まにも月を見ては、いみじく泣き給ふ。
竹取物語
30、花はさかりに。月はくまなきをのみ見るものかは。
雨にむかひて月をこひ、たれこめて春のゆくへ知らぬも、なほあはれに情ふかし。
吉田兼好 徒然草
31 、夏は、夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。
また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。
雨など降るも、をかし。 清少納言 枕草子
32 、山の端の心も知らで行く月は うはの空にて影や絶えなむ
紫式部 源氏物語 夕顔
33、晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ 同じ心にながめせずとも
紫式部 源氏物語 末摘花
梓弓(あずさゆみ)いるさの山にまどふかな なほ見し月の影や見ゆると
(朧月夜の返歌)心いる方ならませば弓張の月なき空に迷はましやは
紫式部 源氏物語 花宴
34 、てる月を弓張りとしもいふことは山辺をさしていればなり
凡河内躬恒
35、 月夜にはそれとも見えず梅の花 香をたづねてぞ知るべかりける
凡河内躬恒 古今集四〇
36、 見る人にいかにせよとか月影のまだ宵のまに高くなりゆく
凡河内躬恒 玉葉二一五八
37 、水のおもに照る月なみをかぞふれば 今宵ぞ秋のも中なりける
源順 (みなもとのしたごう) 拾遺一七一
38 、木の間より もりくる月の 影みれば 心づくしの 秋はきにけり
よみ人しらず 古今集 巻第四 秋歌下 三一二
39 、月夜よし 夜よしと人につげやらば 来てふに似たり待たずしもあらず
よみ人しらず 古今集 巻第十四 恋歌四六九二
40 、てりもせず くもりもはてぬ春の夜の おぼろ月夜にしく物ぞなき
大江千里 新古今集 巻一 春歌上五五
41 、たづねきて 花にくらせる木の間より 待つとしもなき山のはの月
新古今集 巻一 春歌上九四
42 、神は月 ひとの心は 露なれや すめる処に 影や宿さん 内宮神楽歌
43 、春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえてすずしかりけり 道元
44 、山の端のほのめくよひの月かげに光もうすくとぶ螢かな 道元
45 、大空に心の月をながむるも闇に迷ひて色にめでけり 道元
46 、濁りなき心の水にすむ月は波もくだけて光とぞなる 道元
47、風は清し月はさやけしいざ共に踊り明かさむ老の名残に 良寛
48 、雲をいでて我にともなふ冬の月 風やみにしむ雪やつめたき 明恵
49 、花をも憂しと 捨つる身の、花をも憂しと 捨つる身の、月にも雲は いとはじ
謡曲「忠度」
50 、げにや眺むれば 月のみ満てる塩釜の うら淋しくも荒れ果つる
後の世までも塩染みて 老いの波も返るやらん あら昔恋しや 恋しや恋しやと
慕へども嘆けども かひも渚の浦千鳥
音(ね)をのみ泣くばかりなり 音(ね)をのみ泣くばかりなり 謡曲「融」
51、時しも頃は如月の、如月の十日の夜、月の都を立ち出でて、
これやこの、行くも帰るも別れては、知るも知らぬも、
逢坂の山隠す霞ぞ春はゆかしける、
浪路はるかに行く船の、海津の浦に着きにけり。 歌舞伎 「勧進帳」
52、仰(おし)やる闇の夜 仰やる、仰やる闇の夜 つきもないこと
閑吟集 七三
53、花見れば、袖濡れぬ 月見れば 袖濡れぬ 何の心ぞ 閑吟集 305
54、花籠に月を入れて 漏らさじ、これを 曇らさじと 持つが大事な
閑吟集 三一〇
55、曇りなき心の月をさきたてて 浮世の闇を照らしてぞ行く
伊達政宗 辞世
56、空にかがよう弓張月、わが弓勢(ゆんぜい)にたぐえしも、
今は徒(あだ)なる徒波の南冥の果てに朽ちなんこと、勇者の誉れも何かあらん。
曲亭馬琴 珍説弓張月
57 、一声は 月が啼いたか ほととぎす
いつしかしらむ みじか夜に まだ寝もやらね 手枕に
男ごころは むごたらしい 女ごろは左様じゃない
片時逢ねば くよくよと 愚痴なおもひで 泣てるわいな 江戸端唄百番
58 、月は無情と言うけれど、主さん月よりまだ無情。
月は夜出て朝帰る、主さん今来て今帰る
59 、お月さん いくつ 十三ななつ なな織り着せて 京のまち出したれば・・・・
60、他人はおそろし、闇夜はこわい。親と月夜はいつも好い。
「けさの寒さに」守り子唄
61 、うさぎうさぎ、なによ見てはねる。十五夜御月さま見てはねる。
子守歌 あそばせ唄
62、雨降りお月さん 雲の蔭 お嫁に行くときゃ 誰とゆく
野口雨情 童謡
63、月が出た出た 月が出た(ヨイヨイ)三池炭鉱の上に出た
あまり煙突が高いので さぞやお月さん けむたかろ(サノヨイヨイ) 炭坑節
64、村雲すこし有るもよし、無きもよし、
みがき立てたるやうの月のかげに尺八の音聞えたる、
樋口一葉 「月の夜」
65、「I LOVE YOU」 (和訳) 「月がきれいですね」 事実確認はされていない夏目漱石の逸話
66、・・・・日ぐれに落ちた お日さまと、夜あけに沈む お月さま、
逢うたは深い海の底。
ある日漁夫にひろわれた、赤とうす黄の 月日貝。 金子みすゞ 「月日貝」
67、上を向いて歩こう 涙がこぼれないように 思い出す春の日 一人ぼっちの夜
(略)悲しみは星のかげに 悲しみは月のかげに 上を向いて歩こう
涙がこぼれないように 泣きながら歩く 一人ぼっちの夜 一人ぼっちの夜 永六輔
68、ネマノウチカラフト気ガツケバ 霜カトオモフイイ月アカリ
ノキバノ月ヲミルニツケ ザイショノコトガ気ニカカル 井伏鱒二
69、月かげが山の端から中天に移って来たときに、河童の眼にはじめて涙が浮いた。
それは泣くことができない悲しみを感じたときに、泣くことができたからである。 火野葦平「月かげ」
70 、あの池のぐるりを五色の電飾が花やかに取り巻いていて、
月はあれどもなきがごとくなのであった。
谷﨑潤一郎「陰翳礼讃」
71、温泉小屋(いでゆごや)壁しなければ巻きあがる湯気にこもりて冬の月射す
若山牧水
72、月は水銀を塗られたでこぼこの噴火口からできている 宮沢賢治
73、念仏も嫁入り道具のひとつにて満月の夜の川渡り来る 寺山修司
74、夜半過ぎて障子の月の明るさよ 高浜虚子
75、 三日月の今か沈まん波濤かな 高浜虚子
76、寒月や門なき寺の天高し 与謝蕪村
77、菜の花や月は東に日は西に 与謝蕪村
78、雲折々人をやすむる月見かな 松尾芭蕉
79、 此ほたる田ごとの月にくらべみん 松尾芭蕉
80、 名月や池をめぐりて夜もすがら 松尾芭蕉
81、 外(と)にも出よ触るるばかりに春の月 中村汀女
82、春の月さはらば雫たりぬべし 小林一茶
83、名月やとってくれろと泣く子かな 小林一茶
84、姨捨や二度目の月も捨てかねる 小林一茶
85、こんなよい月を一人で見て寝る 尾崎放哉
86、月へひとりの戸はあけておく 種田山頭火
87、お月さまがお地蔵さまにお寒うなりました 種田山頭火
88、腹いっぱいの月がでている 種田山頭火
89、 家ぢゆうに草の匂ひや盆の月 長谷川櫂
90、ホー、ホー、蛍こい あっちの水は苦いぞ こっちの水は甘いぞ
ホー、ホー、蛍こい 山路こい 行燈の光で又こいこい 秋田県
91、すっと来て袖に入たる蛍哉 杉風
92、親一人、子一人蛍光りけり 久保田万太郎
93、物思へば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂かとぞみる
和泉式部
94、声はせで身をのみこがす蛍こそいふよりまさる思ひなるらめ
源氏物語
95、軒しろき月の光に山かげの闇をしたひて行く蛍かな 後鳥羽院宮内卿
96、秋ちかし雲ゐまでとやゆく蛍 沢べの水に影のみだるる
藤原俊成女
97、音もせで思ひにもゆる蛍こそ なく虫よりもあはれなりけれ
源重之
98、飛ぶ蛍ひかりさびしく見ゆるまに 夏は深くもなりにけるかも
樋口一葉
99、その子等に捕えられむと母が魂(たま)
蛍となりて夜(よ)を来(きた)るらし 窪田空穂
100、蛍火の今宵の闇の美しき 高浜虚子
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