こころの月百景



月花の愚に針たてん寒の入
月待や梅かたげ行小山ぶし
春もややけしきととのふ月と梅
猫の恋やむとき閨の朧月
しばらくは花の上なる月夜かな
風月の財も離よ深見草
五月雨に御物遠や月の顔
夏の月ごゆより出て赤坂や
月はあれど留主のやう也須磨の夏
10月見ても物たらはずや須磨の夏
11蛸壷やはかなき夢を夏の月
12手をうてば木魂に明る夏の月
13一家(ひとつや)に遊女もねたり萩と月
14芭蕉葉を柱にかけん庵の月
15あけゆくや二十七夜も三かの月
16三ヶ月や朝顔の夕べつぼむらん
17何事の見たてにも似ず三かの月
18三日月や地は朧なる蕎麦畠
19みしやその七日は墓の三日の月
20月ぞしるべこなたへ入せ旅の宿
21影は天(あめ)の下てる姫か月のかほ
22見る影やまだ片なりも宵月夜
23詠(ながむ)るや江戸にはまれな山の月
24実(げに)や月間口千金の通り町(ちょう)
25侘テすめ月侘斎がなら茶歌
26武蔵野の月の若ばへや松島種
27馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり
28みそか月なし千とせの杉を抱あらし
29月はやし梢は雨を持ながら
30あの中に蒔絵書きたし宿の月
31月影や四門四宗も只一(ただひとつ)
32其玉(そのたま)や羽黒にかへす法(のり)の月
33月に名を包みかねてやいもの神
34義仲の寝覚の山か月かなし
35中山や越路も月はまた命
36国ぐにの八景更に気比の月
37月清し遊行のもてる砂の上
38月いづく鐘は沈める海の底
39月のみか雨に相撲もなかりけり
40ふるき名の角鹿(つぬが)や恋し秋の月
41衣着て小貝拾はんいろの月
42そのままよ月もたのまじ息吹やま
43月さびよ明智が妻の咄しせん
44月しろや膝に手を置宵の宿
45柴の戸の月や其ままあみだ坊
46名月はふたつ過ても瀬田の月
47入(いる)月の跡は机の四隅哉
48月澄や狐こはがる児(ちご)の供
49わが宿は四角な影を窓の月
50たんだすめ住ば都ぞけふの月
51かつら男すまずなりけり雨の月
52けふの今宵寝る時もなき月見哉
53命こそ芋種よ又今日の月
54今宵の月麿(とぎ)出せ人見出雲神
55木をきりて本口みるやけふの月
56蒼海の浪酒臭しけふの月
57名月の月に深川の酒薄シ
58月十四日今宵三十九の童部(わらべ)
59雲おりおり人を休める月見哉
60盃にみつの名をのむこよひかな
61名月や池をめぐりて夜もすがら
62寺に寝てまこと顔なる月見哉
63俤(おもかげ)や姥ひとりなく月の友
64明月の出るや五十一ヶ条
65名月の見所問ん旅寝せむ
66あさむつや月見の旅の明ばなれ
67月見せよ玉江の蘆をからぬ先
68あすの月雨占なはんひなが嶽
69名月や北国日和定めなき
70月見する座にうつくしき顔もなし
71来くるる友を今宵の月の客
72三井寺の門にたたかばけふの月
73名月や門に指くる潮頭
74川上とこの川しもや月の友
75夏かけて名月あつきすずみ哉
76名月の麓の霧や田のくもり
77名月の花かと見えて綿畠
78今宵誰よし野の月も十六里
79座頭かと人に見られて月見哉
80名月の夜やおもおもと茶臼山
81いざよひもまださらしなの郡哉
82やすやすと出ていざよふ月の雲
83十六夜や海老煎る程の宵の闇
84鎖(ぢやう)あけて月さし入よ浮み堂
85十六夜はわづかに闇の初(はじめ)哉
86賤(しづ)の子やいねすりかけて月をみる
87いもの葉や月待里の焼ばたけ
88菊に出てな良(ら)と難波は宵月夜
89かくれ家や月と菊とに田三反
90よめはつらき茄子(なすび)かるるや豆名月
91夜ルヒソカ二虫は月下の栗を穿ツ
92木曽の痩もまだなをらぬに後の月
93九たび起ても月の七ツ哉
94橋桁のしのぶは月の名残哉
95桝買て分別かはる月見かな
96秋もはやばらつく雨に月の形(なり)
97月の鏡小春にみるや目正月
98雪と雪今宵師走の名月か
99月白き師走は子路が寝覚哉
100たび寝よし宿は師走の夕月夜
101月雪とのさばりけらし年の暮
102冬庭や月もいとなるむしの吟
103月やその鉢木(はちのき)の日のした面

月ぞしるべこなたへ入らせ旅の宿


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