「月夜のタヌキ」プロジェクト

物語のいでき始めのおや 〜月夜野アーカイブ〜

「物語のいでき始めのおや」とは、竹取物語のことを指した源氏物語のなかにあることばです。私たちは、「月(ツキ)」と「運」だけで勝負できるこのまち月夜野に、たくさんの物語を育てていきます。2016年、月夜野が日本百名月に登録されたことを機に、みなかみ〈月〉の会を結成しました。

こころの月百景


以前にブログに資料として、三峰神社縁起を載せたことがあります。

そこで、三十六歌仙のひとりである凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)がどのような縁で、三峰山の河内神社に関連づくことになったのかが書かれています。

それをみたときは、河内神社と凡河内の名前のこじつけ話とばかり思っていたのですが、月夜野という土地のご縁からみると、これは必ずしもただのこじつけ話とは言いがたい、なかなか良く出来た話であるようにも思えてきます。

 

まず第一には、凡河内躬恒が村上帝の歌を書き損じた罪でこの地へ流されたことです。

当初は遠い都からこんなところに来るなど、増してやこの無名の地がわざわざ選ばれることなどまずありえないと考えていましたが、中世の都では、実に多くの都人(天皇から貴族・役人)たちが、なんだかんだの理由をつけられては日本中の僻地にとばされていました。

それは実際の戦闘や勢力争いに破れた者に限らず、天皇や権限のあるものからあらぬ疑いをかけられた者や、台頭する新勢力である武士ににらまれたもの、あるいは実際に不祥事などの罪を犯したものなど、武士の切腹が定着する前の時代であったこともあり、ことある毎に多くの都人が遠島や僻地へとばされていたのです。

考えてみると、投獄や刑死などより最も一般的な刑の姿が流罪であったのかもしれません。

とすると、凡河内躬恒がこの月夜野の三峰山麓に幽閉された話など、たとえそれが史実としては疑わしいとしても決して突飛な話しではなく、上毛野国の地理的な都とのつながりからしても十分ありうることであったと思われます。

 
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第二には、その凡河内躬恒という歌人そのものが、古今和歌集に58首もはいっている名声の高さもありますが、それだけに月をみごとに詠み語れる歌人でもあったということです。

凡河内躬恒の逸話として『大和物語』一三二段に、醍醐天皇から「なぜ月を弓張というのか」と問われ、即興で
 

    「照る月をゆみ張としもいふことは山の端さして入(射)ればなりけり」

 照っている月を弓張というのは、山の稜線に向かって矢を射るように、月が沈んでいくからです)

と応じた話があります。

まるで「月夜野百景」の一場面そのものです。



 

雪月花、花鳥風月をうたう優れた歌人なら「月」ネタに欠くことはありません。

多くの歌人が月を題材にしていますが、まさに月夜野の地に選ばれるにふさわしい歌人が凡河内躬恒であるように思えてなりません。

 

 

ちなみに『百人一首』にのる凡河内躬恒の歌は、
 

    29 心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花 

 

 

第三に、月夜野という地名のいわれです。

地元では、都から来たえらいお坊さんが、この地を通りかかったときに空を見上げて

「おぉ~、いい月よのぉ~」と言ったことが「月夜野」という地名のはじまりだとも言われてますが、

文献に記述されたものでは、偉い坊さんではなくて、
これも三十六歌仙のひとり源順(みなもとのしたごう)が東国巡業の折に、
三峰山からのぼる月をみて「おぉ~、いい月よのぉ~」と深く感銘して歌を詠んだといわれます。

そこで詠んだ歌がどの歌であったのかはわかりませんが、
源順の詠んだ月の歌として、
 

    水のおもてにてる月なみをかぞふればこよひぞ秋のもなかなりける

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これまたこの地にもぴったりの歌ともいえます。

この源順なる人は、大変な才人として知られていたらしく、源順の和歌を集めた私家集『源順集』には、数々の言葉遊びの技巧を凝らした和歌が収められているそうです。

また『うつほ物語』、『落窪物語』の作者にも擬せられ、なんと『竹取物語』の作者説の一人にも挙げられるほどの人物です。

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月夜野の皆さん、知ってました?

 

 

つまり、史実の真偽はなんともわかりませんが、

三十六歌仙のうち二人もが、この地を特定した縁を結んでおり、
しかもそれが月にまつわる歌で深くつながっているということです。

だからといって決してこの地で特別に和歌が盛んになったなどという歴史があるわけでもありません。 

でも月を愛でて鑑賞するのに、これほど恵まれた歴史物語が背景にある土地が、そうどこにでもあるものではないということだけは十分頷けるのではないでしょうか。
 

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